親権者とは?戸籍との関係や有効期限を解説
子どもがいる夫婦が離婚するとき、避けて通れないのが「親権」の問題です。親権者になれる人は誰なのか、戸籍や子どもの姓をどうすればいいのか。
これら離婚時に発生する親権者の問題について詳しくご説明していきす。
親権者とは?わかりやすく解説
まず、「親権者」とはどういうものなのかについて解説します。
簡単に言うと、親権者とは離婚後に子どもを引き取り、養育し監護(かんご)する人です。監護とは普段はあまり聞かない言葉ですが、その子を保護し、面倒を見たり教育をしたりするという意味です。
要は「親権者=養育する人」ということです。
親権者になれる人
婚姻期間中は共同親権なので、父と母の両方が親権を持ちますが、離婚すると日本では単独親権となり、父か母のどちらかが親権を持ちます。
(なお、海外では離婚しても共同親権制になっている国もあります。)
離婚届を提出するときに親権者の記載がないと受理してもらえないので、離婚する時にはどちらが親権を持つのかを必ず決める必要があります。
基本的には両親のどちらかが親権を持ちますが、養子縁組をしていれば養い親も親権者になれます。
祖父母が親権者になるのは可能
養子縁組をすれば親権者になれるので、祖父母が孫の親権を持ちたいというときは孫と養子縁組をすれば可能です。
離婚調停では約93%が母親が親権を獲得
家庭裁判所が公開している司法統計(平成30年度)によると、離婚調停で未成年の子どもの親権をめぐる件数は約2万件で、そのうちの93%が母親が親権を獲得しています。
親権者 | 件数(%) |
---|---|
父親 | 1,873(9.3%) |
母親 | 18,713(93.3%) |
定めなし | 41(0.2%) |
合計 | 20,061 |
参照:家庭裁判所 平成30年度司法統計「離婚の調停成立または調停に代わる審判事件のうち未成年の子の処置をすべき件数(親権者別)全家庭裁判所」
最高裁判所公式URL:https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/709/010709.pdf
親権者と監護者が別になることも可能
親権者とよく似た言葉に「監護者」があります。
親権者は子どもを養育するほか、財産を管理する役割もあります。しかし、監護者は財産管理は行わずに子どもを養育する役割を担います。
つまり、親権には監護する権利も含まれていますが、監護は子どもを監護(養育する)だけということです。
例えば、子どもがまだ小さいので母親が子どもと一緒に暮らすけれど、母親には浪費癖があり子どものお金の管理を任すのは不安があるので、父親がお金の管理をするということもあります。
この場合、子どもの監護者は母親、親権者は父親となりますが、現実的には両者の意見が分かれてトラブルになることがあるためおすすめはできませんし、実際に親権者と監護者が別になるケースはほとんどないです。
ちなみに親権者を決めるときの対象となる子どもは「未成年」の子ですが、20歳未満でもその子が結婚したら親権は外れます。
親権者の役割(義務)と権利
親権者には果たすべき役割(義務)と権利があります。それぞれを詳しく見ていきましょう。
親権者の役割(義務)
親権者には次の役割(義務)があります。
- 子どもを監護する(身体や生命の安全を守る)
- 子どもを教育する(主に精神的な教育を指す)
- 子どもの財産を管理する
親権者に認められている権利
一方、親権者には民法で「監護教育権」と「財産管理権」が認められています。
監護教育権
監護教育権には次の権利が含まれています。
権利 | 内容 |
---|---|
居所指定権 | 子どもを育成するために居住する場所を指定できる権利 |
懲戒権(※) | 監護や教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる権利 |
職業許可権 | 子どもが職業を営んだり、他人に雇用されることを許可する権利 |
子どもの代理権 | 子どもの権利を守るために必要なときに代理で手続きができる権利 |
※:懲戒権については、子どもへの過度な体罰や虐待を防ぐために、平成23年の法改正で「監護及び教育に必要な範囲内で」という文言が入れられました。
ただ、その線引きは難しく、どこまでが「子どもの教育に必要な範囲か」がわかりにくいという課題が残されています。
監護権に関してはこちらで詳しく書いています
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財産管理権
未成年の子どもに代わって親権者が財産の管理をする権利のことを言います。
親権者を決める流れ
離婚する際には、必ず親権者を決めなければなりません。
親権者を決めるには、次のような流れで進めていきます。
- 夫婦で協議する
- 協議で決まらない場合は調停を起こす
- 調停で決まらない場合は裁判を起こす
多くの場合は離婚の話し合いと一緒に親権についても話し合いますが、離婚は協議で合意しても親権でもめた場合は調停や裁判になることがあります。
親権者を決める際のポイント
親権者をどちらが持つかというときは、次のように多くの観点から検討する必要があります。子どもの年齢や兄弟の有無、親の経済状態や健康状態などを総合的に見て判断します。
親の立場と子どもの立場、それぞれの検討するポイントを見てみましょう。
親の立場で見た親権を決めるポイント
これまでの監護状況 | 監護の継続性を保つために、今まで監護(子育て)をしてきた方が持つのが良い |
---|---|
子どもへの愛情 | 子どもへの愛情があるかどうか |
親の健康状態 | 子育てができる健康状態であるかどうか |
親の経済状態 | 子育てができる経済状態かどうか |
協力者の有無 | 祖父母や親戚など子育てを援助(協力)してくれる人がいるかどうか |
離婚の有責性の有無 | 離婚の有責性(離婚原因を作った)があるかどうか |
離婚の原因を作った「有責配偶者」が親権者になれないということはありません。例えば妻が不貞行為をして離婚することになっても、母親が親権を持つケースは多く見られます。
有責性があるかどうかだけで親権を決めるわけではなく、総合的に検討して判断されます。
ただ、自分に不利な背景がある場合や不安なときは弁護士に相談してみましょう。
子どもの立場で見た親権を決めるポイント
子どもの立場からも次の点を見る必要があります。
子どもの年齢 | 子どもの年齢が低い場合は母親が優先される |
---|---|
兄弟の有無 | 兄弟不分離の原則があり、兄弟姉妹は離れないのが望ましい |
環境の変化の有無 | 転校や引っ越しがあるかどうか、またそれによって子どもにどんな影響があるのか |
子どもの意思 | 子どもは父と母のどちらと一緒に暮らしたいのか |
親権には「母性優先の原則」があり、特に乳幼児の場合は母親が優先されます。ただ、それも「絶対」ではありません。母親が育児放棄をしたり、健康状態が悪化していたりした父親が親権を持つこともあります。
また、親族の協力が得られるかどうかも検討されます。
親権は子どもひとり一人に対して決める
親権を決める際は「兄弟不分離の原則」があり、なるべく離れ離れにならないように配慮します。
ただ、それでも親権を決めるときには子どもひとり一人に対して決めます。
離婚したら親権と戸籍、子どもの姓はどうなる?
親権を決めると同時に気になるのが子どもの戸籍や姓の問題です。
ただ、親権と戸籍は別のものなので、子どもが父親の戸籍にあり母親が親権を持つということは問題はありません。
と言っても離婚後に母親の姓が変わるのに、一緒に暮らす子どもの姓がそのままでは何かとやりづらい…ということがあります。
その場合は子どもの姓の変更手続きを行います。
離婚後の夫婦の戸籍変更と子どもの戸籍について順に見ていきましょう。
離婚後の夫婦の戸籍(姓)変更の流れ
まず離婚したとき、夫婦の戸籍がどのように変更されるのかその流れを整理しておきましょう。
田中A男さんと鈴木Y子さんが結婚したケースを妻の立場で見ていきます。
結婚したときの戸籍の変更
Y子は鈴木家(親)の戸籍から抜けて(除籍)、A男を筆頭者とする戸籍に入る(入籍)し、田中Y子となります。
戸籍を抜けることを「除籍」、戸籍に入ることを「入籍」と言います。
離婚したときの戸籍の変更
離婚すると、Y子は田中家の戸籍から抜けます(除籍)。
離婚後は、次の2つの選択肢があります。
- A:親の戸籍に戻る(復籍)
- B:Y子が筆頭者として戸籍を作る
一般にはこのときにY子の姓は田中から鈴木(旧姓)に戻ります。
結婚時の姓を継続して使いたいとき
結婚後の姓を継続して使いたいときは、離婚後3ヶ月以内に「離婚のときに称していた氏を称する旨の届」を役所へ提出します。法律では姓のことを「氏」というので、このような届けになっています。
ただし、上記のAのように親の戸籍に復籍する場合は結婚後の姓は使えません。これは同じ戸籍で別々の姓は認められないためです。そのため、実家に戻り、親の戸籍に入るときは旧姓に戻ることになります。
ここまでが結婚から離婚までの戸籍変更の流れです。
離婚後の子どもの戸籍(姓)変更の流れ
では、次に離婚後に子どもの戸籍をどうすればいいのかを見ていきましょう。
子どもがいる場合は、離婚しても子どもは父親の戸籍に残るので、子どもの姓は変わらずそのまま田中姓を名乗ります。
離婚後子どもの姓を母親の姓に変えたいとき
Y子が子どもを引き取り、自分の姓(鈴木)にしたい場合は家庭裁判所で「子の氏の変更許可申請」をして、子どもの戸籍をA男の戸籍からY子の戸籍に移す手続きをします。この場合も「入籍」と言います。
ただし、姓の変更が子どもの幸せになるのかどうかを検討する必要があります。例えば転校せずに離婚後も同じ学校に通う場合、友達から何か言われるのではないか…といった影響を考える必要があります。
この判断は家庭裁判所が行います。
15歳以上の子どもは自分で氏の変更許可を申立てる
子の氏の変更許可の申立ては、15歳未満は親が法定代理人として行いますが、15歳以上は「自分で判断できる」とみなされるため、自分で申立てることになります。
父親の戸籍から抜けても扶養義務は変わらない
このように離婚に伴って子どもの籍が父親から抜けても、父親には子どもを扶養する義務はあります。
子どもはどちらの戸籍であっても、父と母の扶養義務は変わらないということを理解しておきましょう。
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子どもの親権でよくあるQ&A
子どもの親権をめぐってよく相談されることや疑問についてご説明します。
Q:親権者ではない親の財産を子どもは相続できないのですか?
夫婦が離婚し、親権は母親が持ちました。
その後、父親が死亡した場合、父親の財産を子どもは相続できないのでしょうか?
A:子どもには相続権があるので可能です
亡くなった人(被相続人)に配偶者と子どもがいる場合、法定相続人は配偶者とその子どもです。
離婚すると別れた配偶者には相続権がありませんが、実の子には相続権があります。これは離婚後に被相続人(ここでは父親)が親権を持たなくても変わりません。
Q:親権者と監護者の変更はできますか?
離婚し、子どもの監護者には母親が、親権者には父親と決まりました。その後、母親が親権を持ちたいと思った場合、親権者の変更はできるのでしょうか?
監護者の変更についても教えてください。
A:親権者の変更は家庭裁判所での手続きが必要です
親権者が変わるということは、子どもの利益(生活や教育、精神的な安定などを含めた子どもの健全な成長)を左右することになります。
そのため、父母の話し合いだけで決めることはできません。親権者変更をするときは家庭裁判所に「親権者変更調停」を申立てる必要があります。
調停では父と母それぞれの経済状況や家庭環境、子どもの年齢や健康状態などの資料を提出し、調停委員を交えて話し合います。
調停で合意できれば親権者変更ができますが、調停が成立しない場合は自動的に裁判官による審判が行われます。
なお、監護者の変更は双方の協議だけで決めることができますが、協議で合意できない場合は家庭裁判所で調停を行うことになります。
また、親権者の死亡によって変更する場合も家庭裁判所での親権者変更手続きが必要になります。
A:夫婦どちらも子どもを引き取りたくないのですが、どうすればいいですか?
夫婦で話し合って離婚することに決めました。夫は仕事が忙しく不在がちで子育てができないため、子どもは引き取れないと言います。
妻も不倫相手と結婚するため、子どもは引き取りたくないと主張しています。
このようなときはどうすればいいでしょうか?
A:離婚時には必ず親権者を決める必要がある
離婚届には未成年の子の氏名とその子の親権者の名前を記入する欄があり、未記入では離婚届は受理されません。
夫婦のどちらも親権を持ちたくない(子どもを引き取りたくない)というときは調停で決めることになりますが、それでも決まらない場合は裁判で決めることになります。
子どもの親権や戸籍でお困りの場合は弁護士に相談を
夫婦間で離婚の意思が固まった場合でも、子どもの親権をめぐってもめることがよくあります。
親権や養育費、戸籍などでお困りの際は弁護士に相談して、少しでも子どもにプラスになるように進めていきましょう。
親権者とは~まとめ
離婚は夫婦2人だけの問題ではありません。子どもがいればどちらが親権を持つのかを話し合わなければなりません。
夫婦の状況によっては子どもを引き取れない、親権は得たいが経済力がない……などさまざまな事情があります。
そんなときは子どもの幸せを最優先に考えていきましょう。もし現実的な問題があるときや法律面でわからないことがあれば、迷わず弁護士に相談してください。
親権をめぐる相談は多いので的確なアドバイスを受けることができます。最近は無料相談をしている事務所も多いので、ぜひ活用して下さい。
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