モラハラとは?家庭(夫婦)や職場の事例と裁判などの対処法を解説
近年は職場や家庭内をはじめ、さまざまな場面でモラハラが増加しています。
そこで当ページでは離婚事由にもなり得る家庭(夫婦間)や職場でのモラハラの事例や、それが原因で裁判になったケース、モラハラを受けたときの対処法について解説していきます。
モラハラ(モラルハラスメント)とは?
まず、モラハラとは何のことなのか、その意味を理解しておきましょう。
「モラハラ」は正式には「モラルハラスメント」と言います。
- モラル……道徳・倫理・生き方など
- ハラスメント……いやがらせ
このように道徳的な面や相手の行動に対して、バカにしたり、いやがらせ行為を行うことをモラハラ(モラルハラスメント)と言います。
モラハラとパワハラ・DVとの違い
最近はさまざまな「ハラスメント」があり、モラハラとよく混同される似た言葉に「パワハラ」や「DV」があります。
モラハラは言葉の暴力(バカにする、嫌なことを言う、見下した態度を取るなど)に対して、パワハラ(パワー・ハラスメント)は上司や先輩などの立場を利用して相手に精神的、身体的な苦痛を与えることを指します。
また、DV(ドメスティックバイオレンス)は夫婦間や恋人など親密な関係にある相手から暴力やモラハラを受けることを指しますので、モラハラもDVに含まれます。
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モラハラはDV防止法でも規定されている
夫婦間のDVに対する法律として「DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)」があり、その第1条で「配偶者からの暴力」を次のように定義しています。
- ① 配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの)
- ② ①に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動
つまり、身体に対する攻撃や危害だけでなく、心にも有害な影響を与える言動がDVとみなされます。
DV防止法では、DV(配偶者からの暴力やモラハラ)を受けた人の相談を受けたり、保護したりすることが決められています。DVが怖い場合は「保護命令」を出してもらうことで、相手が自分に接近ができないようにすることも可能です。
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なお、DV防止法は夫婦と事実婚(内縁関係)にある男女が対象で、恋人同士や職場のモラハラは含まれません。
モラハラをする原因や心理
なぜモラハラをしてしまうのか、その原因や心理を見ていきましょう。
一般的に次のような原因があると考えられます。
- 相手より上に立ちたい
- ストレス発散の一部
- 自分への愛情や誠意があるか試している
- 自分を構ってほしい、認めてほしい
「相手より上に立ちたい」という動機は「自信のなさの裏返し」であると言えますし、「自分を構ってほしい」とか「自分への愛情や誠意があるか試している」という動機も「もっと愛されたい」という気持ちの表れであると言えるでしょう。
こういったことから、モラハラをする人の中には、幼少期の家庭環境で愛情を受けていない、虐待されたといった経験が影響しているケースもあります。
また、そもそも自分の行為を「モラハラ」だと自覚していないケースが多いのも事実です。
モラハラが与える心身への影響
相手の愛情不足やストレス発散のはけ口としてモラハラを受ける方はたまったものではありません。
モラハラを受けることで、心身に次のような影響が出ることがあります。
- うつ病またはうつ的な症状
- 心身症
- 適応障害
- PTSD(心的外傷後ストレス障害)
うつ病またはうつ的な症状
うつ病を発症すると、不安やあせり、気分が落ち込む、やる気(意欲)の低下、自分を責めるなどの症状がみられます。
また、睡眠障害や食欲がなくなる、疲労感など身体的な症状が出ることもあります。
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心身症
心身症は過度なストレスなどが原因で身体や心にさまざまな影響が出る病気です。
人によってぜんそくや胃腸炎、胃潰瘍、頭痛、皮膚炎、摂食障害など症状は異なります。また、うつ病や自立神経失調症のような症状が出ることもあります。
適応障害
適応障害も強いストレスが原因となる病気で、不安や怒り、あせりなどの症状が出るほか、何か行動をしようと思うと動悸がする、汗をかくといった症状が出ることもあります。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)
PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、ショック体験や強いストレスがあると、それがダメージとなり、あとから不安や恐怖を感じることを言います。
事故や災害に遭ったあとで、そのときの恐怖体験を思い出すことをPTSDと言いますが、モラハラやDVを受けた後でもPTSDが現れることがあります。
ケース別|モラハラの言動例
このように心身にさまざまな影響を与えるモラハラ(モラルハラスメント)ですが、モラハラをする相手は配偶者や恋人、職場の人などがあります。
それぞれのケース別で、どのような態度や行動があるのか、ご紹介します。
夫婦間でのモラハラでは、よく次のような態度や行動が見られます。
- 妻(または夫)を責める
- バカにする
- 相手の実家をバカにする
- 人のせいにする
- 周囲にウソを言う
- 無視する
- 暴言や言葉の暴力
- いばる
- 嫉妬する
- 束縛する
- 突然怒り出す
もっと詳しく見ていきましょう。
妻(または夫)を責める
家庭内で何か起こったときや物が壊れたときなどに「お前(あなた)のせいだ」「何をしたの?」「いつも〇〇しているから、こんなことになるんでしょ!」とささいなことでも相手を責め立てます。
ひどくなると、「お前(あなた)と結婚したから自分は不幸になった」と言い出すこともあります。
バカにする
モラハラでは相手をバカにする行為もよく見られます。
「高卒だから、こんなこともわからないんだろう」「本当にグズだよな」「お前みたいなブスと結婚してやったんだから感謝しろよ」などがあります。
相手の実家をバカにする
配偶者だけでなく、相手の実感をバカにするのもモラハラの言動として見られます。
「あなたのお父さんは今だに役職に就いていないんでしょ?」「お前の実家は貧乏だから、こんな高級レストラン行ったことないだろ」などが該当します。
人のせいにする
モラハラをする人は自分の間違いを認めようとしません。何かあっても、「お前が悪い」「だから俺は最初からやめようって言ったのに」など、常に周囲のせいにする傾向があります。
周囲にウソを言う
モラハラの行為のひとつに、実際には起きていないことを周囲に言いふらすというものがあります。
「うちの嫁は朝は起きてこないし、掃除もしないんだ」などの悪口を友達や同僚などにおおげさに言いふらします。本来ならかばうべき身内のことをわざと悪く周囲に伝えるだけでなく、実際はきちんとしていてもウソを広げる行動をします。
ひどい場合はわざと汚れた服を着て行き、「嫁が洗濯してくれないんだ」と周囲にウソを言うこともあります。
無視する
相手が話しかけても返事をしない、聞いているのかいないのかわからない、挨拶をしないなど、とことん無視をします。
まるで悪質ないじめのような行動をとります。
暴言や言葉の暴力
相手は悪くないのに「ボケ」「バカ」「クズ!」「出ていけ!」など言葉の暴力を浴びせます。
いばる
命令口調で指図をしたり、「早く〇〇しろよ」「誰のおかげだと思っているんだよ」といばったりします。
嫉妬する
帰りが遅いと「どこで、誰と会っていたの?」「その洋服、派手じゃない?誰かいい人でもいるの?」とやたらと疑い深くなり、ささいなことでも嫉妬したりします。
ひどくなるとバッグや車の中に盗聴器を仕掛けることもあります。
束縛する
誰と電話しているのか、誰と会うのか、休日に出かける理由は何かを聞き出して、「〇時には帰ってきて」と束縛します。
夫の仕事上のつきあいや妻のママ友ランチなどを禁止するといった行動も見られます。
突然怒り出す
理由もなく急に怒り出すことがあります。周囲は何が原因で怒っているのかわからず、戸惑ってしまいます。その様子に子どもが怖がることもあります。
家庭内の空気が悪くなる上に、家族がビクビクして過ごすことになります。
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彼氏・彼女(恋人間)でのモラハラの例
離婚にはなりませんが、彼氏や彼女という恋人関係でも次のようなモラハラがあります。
- 相手を責める
- バカにする
- 人のせいにする
- 暴言や言葉の暴力
- いばる
- 嫉妬する
- 束縛する
- 無理な要求をする
こちらも、もちろん弁護士などに相談することで慰謝料の請求をすることも可能です。
職場でのモラハラの例
こちらも離婚には繋がりませんが、モラハラは職場でもよく見られます。上司が部下に対するパワハラ(パワーハラスメント)もありますが、立場に関係なく行うモラハラ(モラルハラスメント)もあります。
特に職場では十分な説明や指示を出さずにミスをさせて恥をかかせるとか、仲間外れにする、悪口(誹謗中傷)を広げるといった悪質なものがあります。
- 相手を責める
- バカにする
- 人のせいにする
- いばる
- 十分な情報や指示を与えずミスをさせる
- 無理な要求や指示をする
- 悪口や陰口を言う(誹謗中傷して悪口を広げる)
- 無視する
- 仲間外れにする
妻や夫(配偶者)からモラハラを受けたときの対処法
配偶者からモラハラを受けたときは、次のように段階的に対策を取っていきましょう。
- その言葉や態度で自分が傷ついているということを伝える
- 相手の言動をメモしたり、録音したりしておく
- 親や友達など親しい人に相談して、その人から相手に「いけないことだ」と伝えてもらう
- 相手の態度が変わらないときは、しばらく別居して距離を置く
- 最終的に離婚を考える
順に見ていきましょう。
自分が傷ついていることを伝える
相手は無意識のうちにモラハラをしている可能性があるので、まずその言動で自分は傷ついているとはっきり伝えることが大切です。
早い段階なら相手が「そうだったんだ!」と気づいて態度を改めてくれる可能性があります。
ただ、それが当たり前になってしまうと相手が非を認めるのは難しくなってしまいます。早めの対策が重要です。
相手の言動を記録する
一般的にモラハラをする人は外面(そとづら)がよく、愛想がいいことが多いものです。そのため、あなたが周囲の人に相談しても信じてもらえないことがあります。
対策としてモラハラを受けた日時と内容を日記やメモに書き留めたり、録音したりしておきましょう。
親しい人から指摘してもらう
相手に「傷ついている」と伝えても態度が変わらない場合や、さらにひどくなる場合、逆切れする場合などは親や友人など親しい人に相談し、その人から注意してもらいましょう。
そのときはモラハラを記録した日記やメモ、音声を録音したデータを持っていくと効果的です。
ただしモラハラをする人は自分が責められるのを嫌がります。誰に相談するかも重要なポイントです。相手が素直に意見を聞ける人(尊敬している人など)にお願いしてみましょう。
しばらく別居して距離を置く
モラハラをする人はひどいことを言う反面、構ってほしい一面があります。また、自分が何を言ってもあなたは黙って従っているとますます増長してしまいます。
そんなときは、しばらく別居して距離を置くことで反省し、態度を改めることがあります。また、別居することで相手の出方を見ることもできます。
最終的に離婚を考える
どうしても相手の態度が変わらない、自分も耐えられないというときは離婚を検討することになります。
慰謝料請求するなら音声データや心療内科を受診した診断書などの証拠を取っておくことが重要です。
また、モラハラをする人は自分が悪いことを認めず、逆切れするなど対応が難しいところがあります。スムーズに離婚を成立させるために、弁護士に相談されることをおすすめします。
モラハラが原因で離婚する方法
モラハラが原因で離婚するときは、次の3つの方法があります。
- 夫婦で話し合って協議離婚をする
- 離婚調停を申し出る
- 離婚裁判を起こす
モラハラによる協議離婚
まずは夫婦で話し合って決める「協議離婚」を行いますが、モラハラをするような人は自分が責められる場は好みません。
特に1対1での話し合いでは相手を激昂させるだけで逆効果になることが予測されます。自分の両親を交えての話し合いも可能ですが、両親の前では神妙な顔で反省した振りをしていても、両親が帰った後でさらにモラハラや暴力を受けるリスクがあります。
モラハラの相手は協議離婚は避ける方が無難でしょう。それとなく離婚をちらつかせてから、またはすでに別居してから離婚調停を申立てる方が安全だと言えます。
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モラハラによる離婚調停
離婚調停は夫婦が別々に調停委員と話をするので、相手と直接顔を合わせることはありません。最後の話し合いの際は同席しますが、ほとんどの話は別室で進められるので、モラハラの相手との離婚を考えるなら調停がおすすめできます。
なお、弁護士に依頼すれば調停に同席してもらうことも可能です。調停でも証拠があると有利です。必ず証拠は押さえるようにしましょう。
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モラハラによる離婚裁判
いきなり離婚裁判はできません。まず調停をする必要があり、調停が不成立に終われば裁判になります。
裁判では証拠を提出してモラハラがあることを示し、さらにモラハラで自分の体調が悪化したことを示すなどをすると離婚成立しやすくなるし慰謝料請求にも有利です。
ただ、裁判が結審するまでには1年~1年半ほどかかります。その間、相手と同居するのはさらにモラハラが悪化する可能性があるため、別居できる環境を準備しておくことが重要です。
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モラハラによる離婚で慰謝料請求は可能?
モラハラが原因の離婚で慰謝料請求は可能ですが、相場は50万円~300万円と幅があります。
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モラハラでの離婚の慰謝料金額を左右する要素
モラハラ離婚での慰謝料の金額は、次のような要素によって左右されます。
- モラハラの内容
- モラハラが始まってからの期間
- モラハラをする原因が自分(受ける方)にあるかどうか
- モラハラが原因で心身に不調をきたしているかどうか
- 相手の年収や社会的地位
特にモラハラの内容がひどい場合や期間が長い場合、モラハラが原因で病院を受診した場合、相手の収入が高い場合などは慰謝料が高くなる傾向があります。
逆にモラハラをされる側にも原因があることがあります。例えば料理や家事をきちんとしない、常にだらしない、夫婦で話し合って約束したことを守らないなどがあり、それに対して相手が怒って暴言を吐くということが考えられます。
その場合は慰謝料を請求しても減額されるか、または慰謝料が認められないことがあります。
夫のモラハラが原因で離婚と慰謝料請求できた判例
では次に、実際にモラハラ離婚で慰謝料が請求できた判例をご紹介します。
夫も妻も30代前半の夫婦は、子どもができてから夫の態度が変わってきました。妻に命令口調になり、育児で疲れている妻に「家事が手抜きだ」「何もできないクズ嫁だ」とののしり続けました。
妻は決して手抜きをしていたわけではなく精一杯努力しましたが、夫の暴言は止まりません。実家の母にも手伝いに来てもらいましたが、夫は「実家に自分の悪口を言っている」と言って、モラハラがさらにひどくなったのです。
ついにはうつ病になり、病院を受診するまでに悪化しました。そこで母のアドバイスを受けて、妻は夫の暴言を録音していました。
その後、妻は子どもを連れて実家に帰り、離婚と慰謝料を請求することにしました。弁護士に相談し、当時の様子を母に証言してもらう、暴言の音声データや病院の診断書を提出するなどの証拠を出すことで離婚が成立し、夫には100万円の慰謝料の支払いが命じられました。
妻のモラハラが原因で離婚と慰謝料請求できた判例
もともと嫉妬深い性格だった妻(30代前半)は、夫(30代半ば)の夫の行動をいつも気にしていました。夫は家族のために出世したいと仕事に打ち込んでいて残業や出張が増えていきますが、それを妻は「浮気しているのでは?」と疑うようになります。
その結果、仕事中に何度も電話やLINEをする、今どこにいるのか証拠の写真を撮影して送れと指示を出す、帰宅後はカバンの中や下着までチェックするなど束縛が加速していきました。
妻に注意しても聞き入れず、次第に仕事に支障をきたすようになり、妻とは距離を取ろうと別居を始めました。すると妻の怒りは増幅して、脅迫めいたことを口にするようになりました。たまりかねた夫は弁護士に相談し、離婚と慰謝料請求を求めます。
夫が電話の履歴や録音データ、LINEなどを残していたこと、職場の同僚も妻からの仕事中の電話などを見ていたことも証拠となり、離婚が成立。妻に対して80万円の慰謝料請求が認められました。
モラハラで困ったときは弁護士に相談を
このようにモラハラをする人は自分が優位に立とうとするため、離婚や慰謝料請求をされると猛烈に反論することが予測されます。
モラハラを受けていた人がそれに立ち向かうのはかなり困難ですし、場合によっては危険を伴います。
早めに弁護士に相談して最善の策を取るようにしましょう。
モラハラ(モラルハラスメント)とはまとめ
モラハラが続くとそれが原因でうつ病や心身症になることもあり、被害は深刻です。
相手にやめてほしいと伝えても改善されない場合は、自分の身を守るためにもきちんとした対策を取るようにしましょう。
DV防止法でモラハラの相手が自分に近づかないようにする保護命令を出してもらうこともできますし、離婚する際には慰謝料請求も可能です。
ただモラハラをする人は口がうまい、外面がいいといった特徴があり手ごわいため、弁護士に相談しながら対策を取っていきましょう。
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